財布をなくす

自分の財布とは別に生活費を入れた家計用の財布がある。ある日の休日、家族で出かける際にその財布を持って行こうとすると・・・ない。いつもの置場所にない。奥さんに聞いても知らないという。家にあるカバン類を全部ひっくり返してもない。食器棚と冷蔵庫の隙間、ソファーの下や裏側等々とにかくどこを探しても見つからない!

子どもがいたずらでどこかに隠したか?という疑念もよぎったが、最後にその財布を持ち出したのは誰かといえば・・・僕だ。昨日スーパーとドラッグストアに買い物に行ったときに持って行った。

とりあえずスーパーに電話し、財布の忘れ物がなかったか聞いてみる。電話に出たのは初老の男性で、のんびりとした口調で財布の特徴、中身などを確認してくるのだが、なぜか同じことを2、3回聞いてくる。悪いのは僕なので申し訳ないのだが、正直イライラしてくる。事は一刻を争うのだ。もし見つからなければすぐに警察に届け出たり、クレジットカードの停止などの手続きをとらなければならない。

「それでは確認しますのでお待ちくださーい」と男性が告げ、パッヘルベルのカノンが保留メロディーで流れ始めた。本来は清々しい気持ちになる曲だが、今はただただ重々しく頭に響く。ひとしきりカノンが流れた後保留が終わり、男性が告げたのは「そういった落とし物はまだ届いていないようですねえ」

男性に礼を言い、その後すぐに警察に電話をして財布が届いていないか聞いてみる。当直の若い警官が対応してくれ、先ほどとは対照的に迅速に対応、回答してくれたのだが、結果としては「まだ届いていません」

電話では落とし物の届け出は受付られないので、近くの交番かネット上の専用ページで届け出るよう言われ、礼を言って電話を切る。

残すはドラッグストアのみである。家からすぐのところにあるので、直接行って聞いてみることにする。しかしこれでなかったら見つからないだろうな…一万数千円入ってたけどアレコレ買えたなあ…カード類の再発行死ぬほどめんどくさいなあ…ああ、自分のバカバカ!

絶望感にうちひしがれながらドラッグストアに到着。店員さんに「あの、昨日財布を…」と伝えかけたところで、店員さんは黙って大きくうなずき、店の奥に引っ込んだ後、見慣れた我が家の財布を持って現れた。

ああ、神様…!

「あの、ありが…」とお礼を伝えきる前に、店員さんはまた黙ってうなずき、仕事に戻って行った。忙しいのに間抜けな客を相手にするのも大変である。

何はともあれ、拾って届けてくださった方、保管してくれていたお店には感謝感謝である。財布の中身は何も減っていなかった。

記憶を呼び起こすと、確か最初は現金で支払うつもりで財布を片手に持っていたのだが、レジ前でやっぱりペイペイにしようと心変わりし、レジ台に財布を置いてそのまま忘れてしまったと思われる。

自分の無能さうっかりさにほとほと嫌気が差しつつ、人の善意のありがたさが身に沁みた出来事であった。いや本当によかった…( ´Д`)=3